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Special Issue

2014年から日本のトップ・フォーミュラに新しい時代を拓く次世代マシン「SF14」の姿形が見えた!

両角岳彦

SF14 FIRST VIEW

 今、世界に向けて様々なマシンを開発・製造しているレーシングカー・コンストラクター、ダラーラ・アウトモビリが手がけるスーパー・フォーミュラの次世代シャシー「SF14」。
 初めて見るエクステリア・レンダリング(外観3D描画)からは、まず全体のプロポーション、そして各部のディテールとも、さすがに最新のトップ・フォーミュラらしいデザインがなされていることが伝わってくる。
 まずドライバーの腰と尻が収まるコックピット底面から一気に前上がりにノーズに至るハイノーズ、その上面はコックピット・オープニング前端からわずかに高さを増しながら前に伸びてフロントタイヤの前にまで伸びる。
 もちろんフロントから入り込む空気流をできるだけ多くマシンの底面と路面の間に導き、大きなダウンフォースを生み出すための基本形だが、さらにSF14では、いわゆるサイドポッドが前から側面にかけて下部がぐっと絞り込まれている、その下側に張り出すフロアパネルの前端面が上に持ち上がり、ここから空気を取り入れて後方に流す形状になっている。つまりコックピット部分を挟んだ底面の両側に「ベンチュリー」が設けられ、それがマシンの後端まで延びて上に反った「ディフューザー」として開口、この、後方に向けて断面積が広がる「チャンネル(流路溝)」の中を空気が高速で通過することで圧力が下がり、強い下向き力が車体に作用する。現行SF13の設計思想を受け継ぎ、いわゆる「ベンチュリーカー」としてデザインされているのだ。フラット&ステップドボトムであることが規定され、その底面全体を後ろ上がりにする「レーキ」を設定するなどの手法で底面ダウンフォースを得ているF1よりも格段に強烈な空気力でマシンが路面に押しつけられる。そういうマシン・コンセプトが伝わってくる。いずれ具体的な空力データを確かめたいものだ。
 さらにその上側のサイドポッドは、前から側面にかけて下部を深くえぐり、ハイノーズ下からの気流をマシン後部に導く造形だが、その後方上面は強いスロープを描いて落とし込まれ、エンジン部分を覆うセンターカウルは細く絞られて、その中に収まるのが全く新しい直列4気筒ユニットであることを実感させる。このエンジンについては、いずれ開発者の方々へのインタビューも含めて、詳しくお伝えしたいと思っている。

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 エンジンの排気量は2リッター、ターボチャージャーによる過給を行い、さらに燃料流量(エンジンへの瞬間的な供給量)を高回転域では一定に、その手前では回転速度に応じて制限する燃料リストリクターを組み込んで性能の均一化を図る、という基本仕様なのだが、SF14のサイドポッドの中の冷熱系は片側に冷却水ラジエーターやオイルクーラー、もう一方の側に圧縮気インタークーラーという配置にすれば無理なく収まるはずだ。その熱気排出と後方のリアタイヤ直前の大きな渦の発生を抑え、リアウィングへの気流を整える垂直翼型アウトレット、いわゆるチムニーを描いたレンダリングもある。
 一方、センターカウルの背面には三角形のバーチカル(垂直)フィンが付く。マシンがスピン挙動に陥った時に「風見安定」を生み、スピンする動きを抑制する効果が期待されているはずだ。
 そしてリアウィングは最新F1流のメインプレーン(主翼面)と後縁フラップの「2エレメント」。翼端板のウィング前上方にはこの部分に翼がはね上げようとする空気が押し込まれて渦が生じ、翼の外側部分の効率が落ちるのを防ぐためのスリットも設けられている。翼端板の外を流れる速い気流で内側の渦を吸い出し、リアウィングの効率を高める処理である。
 ここで視線を一気にフロントエンドに振る。ハイノーズ両側からの左右のステー(支持翼)で吊り下げられるノーズウィングは、メインプレーンの両側にワイドなフラップを組み合わせた現代フォーミュラカーのセオリーに沿った構成。ここでも翼端板に下面チャンネル(溝)を設けて渦の発生を抑え、その後方側面に小さな空気導入孔を設けてフラップの裏側(下面)にエネルギーを持った気流を導き、強く跳ね上げられたフラップ裏面の気流が剥がれるのを抑えるなど、最新の空力デバイス・デザインが導入されている。
 こうした最新ハイノーズ・フォルムを採用した結果、フロント・サスペンションアームがピボット(支持)される部分のモノコックもかなり高い位置になり、上下のAアームは正面から見て少し外下がりのレイアウトになっている。車輪のストロークをスプリングとダンパーに伝えるのはプッシュロッドだが、それがモノコックの中に入ってゆく部分のボディ上面は、両側でわずかに盛り上がった断面になっている。フロントタイヤとサスペンションアーム周辺で大小様々な渦が生まれるのだが、ノーズ先端から上面を少しでもそこから仕切って、この狭い幅の中の空気をきれいに後方に流そうという、これも最新の処理である。
 車体前端部分をこういう形状にすると、プッシュロッドの動きを伝えるために垂直に近い軸を持って揺動するロッカーアームを収める空間を確保するのが難しくなる。そこで最新のF1、さらにダラーラが2012年からF3に導入した、車体の前後方向に通したトーションバー・スプリング(ねじり棒バネ)を、その前端部に組み込んだベルクランクで直接ねじる機構が採用されていることも、これらのレンダリングから推測できる。
 リア・サスペンションはシンプルに、上下Aアームのダブル・ウイッシュボーンで車輪のストロークはプッシュロッドを介して細く絞られたリアカウルの中のスプリングとダンパーに伝えるメカニズム。その下をベンチュリー・チャンネルが通るのでロワーアームは少し高い位置に置かれるが、この部分のはね上げによるディフューザー効果で底面ダウンフォースの発生が大きく左右されるF1のような極端なレイアウトを追いかけてはいない。

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 レーシングマシンは、そのデザインの全てが機能に基づいて案出され、描かれる。とくに今日のサーキット競技用車両において速さの鍵を握る「エアロダイナミックス」は、見えない空気を相手にしながらも、それぞれの形に意味があり、しかも相互に影響しあう。そこを考え、試し、使ってみる中で新しいデザインの潮流が生まれてゆく。だからSF14となる新たなデザインのエクステリア造形を目にしただけでも、こうやって「読み解く」ことが可能になるわけだ。
 実車との対面、すなわち最初のテストカーが日本にやってきて組み上げられるまであと3カ月余り。待ち遠しい一方で、日本のトップ・フォーミュラが新たなステージに踏み出す時が間近なものになってきたことを、この何枚かの「完成予想図」が実感させてくれるのである。